昼と夜が同じ長さになる頃、ロックバンドは溶け合った

ライター・ライブ写真家/高畠正人

■フェスであり、ワンマンライブであり、ガチンコの対バンイベント

 たぶん、2023年のハイテンションフェスが終わってから尾形回帰はずっと今日のことを考えていたんだと思う。すでに恵比寿のリキッドルームのスケジュールは押さえた。だけど、そこに向かって何をやるべきか? と。もちろんハイテンションフェスをやることが前提だったと思うけど、熟考していくうちに、よりミュージシャンとして自身の本質と向き合いたくなったのではないだろうか? そして辿り着いた答えが、HERE、アルカラ、9mm Parabellum Bulletに関わるミュージシャンたちによる「Harmonized In Chaos」というコンセプトライブ。各バンドのガチンコライブを軸に、尾形回帰+現象、菅原卓郎ソロバンド、そしてそれぞれのバンドへのゲスト客演といったパフォーマンスがステージ転換なしのシームレスに続くという、まさに、“フェスであり、ワンマンライブであり、ガチンコの対バンイベント”。お互いをサポートし、リスペクトし合っているからこそできるステージ。2025年3月23日、恵比寿でChaosの幕が上がった。

■HERE(第1部)

 定刻を5分すぎた頃、“ミツハシ! ミツハシ!”、“タケダ! タケダ!”、“オガタ! オガタ!”と名字を連呼する例のSEと共に、サポートドラマーのマーシー、同じくサポートベースの壱が登場。身に纏っているのは自らの曲名をプリントした15周年時の赤いスーツだ。

 1曲目はこの日の開会宣言とばかりに代表曲『MANをZIしてロックスター』でスタート。まずはHEREがどんなバンドかをお披露目というわけだ。ツインギターの武田将幸&三橋隼人が交互にお立ち台でソロパートを弾きまくり、ヘヴィなメタルサウンドの決めではボーカル尾形回帰も揃って見栄を切る。この外連味が悪い意味ではなく、ロックバンドとしての王道に見えるところがHEREの真髄。

 2曲目はお客さんのお手を拝借する『BANG‐BANG-ZAI』でフロアは万歳三唱の渦に。ステージがいつものライブハウスよりも広いので、メンバーのアクションも大きく、武田&三橋が交互に立ち位置を入れ替えていくのも軽快だ。

 驚いたのは続いた曲が、初期ナンバー『さらば、カマキリ夫人』~『アモーレアモーレ』だったこと。HEREの長い歴史のなかでも飛び道具的なこの2曲を第1部に持ってくるとは。しかも『アモーレアモーレ』ではゲストボーカルとしてアルカラ稲村太佑が参加。尾形&稲村の『アモーレ~』はこれまでも競演があるだけに、冒頭のステージせり出しや振りがピタリと揃っていて微笑ましい。さり気なくハモりもこなし、絶妙なタイミングで客席を煽る稲村を見ていると、とてもこのあとアルカラの本番が控えている人とは思えない。『アモーレアモーレ』の間奏時は通常のライブであれば、客席に降りてのドラム・パーカッションターンがあるのだが、今回はアルカラ疋田武史、下上貴弘を呼んでの大セッション大会。セッション中にドラムがマーシーから疋田武史へぬるっと変わっていったのはまさにシームレスステージの醍醐味。そして尾形、稲村、武田、三橋、下上、壱の「めちゃくちゃヤバいことしたくなる」のせり出しでHEREの第1部は終了。

■アルカラ

 『アモーレアモーレ』のギターフィードバックが鳴り止まないなか、『夢見る少女でいたい』のイントロが流れ始めアルカラのターンへ。ギターはそのままアルカラのSSGHでもある武田将幸が務める。『夢見る少女~』のギターソロを武田が弾くとアルカラの曲に彩りが加わり、より華やかに。

『夢見る少女~』が終わるとギターはfolcaの爲川裕也にチェンジし、そこから『サースティサースティサースティガール』へ。変則リズムにも関わらずキャッチーで尚且つ、轟音という不思議な曲。それを完璧に演奏していくアルカラ。それぞれの音に耳を傾けるだけで興味深いフレーズを弾いているのに、それらがひとつになるとキャッチーに聴こえるのだから流石だ。

 『水曜日のマネキンは笑う』を挟んで披露されたのは、まさかまさかの『キャラバンの夜』。なんといってもこの曲は稲村太佑によるヴァイオリン演奏が白眉。

固唾を飲んで聴き入るフロアと、それを受け入れ深く深く入り込んでいくメンバーの演奏。対バンイベントでインストを曲をがっつりやるところに、アルカラがこのイベントに捧げる愛を感じた。

 MCを挟んで披露されたのは新曲『おとなりさんキサイユニバース』。弾き語りから発展していったというこの曲は、バンドで演奏すればするほど滋味が増し、裕也の弾くギターのリフやソロが効果的に響く。レコーディング前でこの状態ならば、いったい音源として届くときはどうなっているんだろう。

 次に披露されたのはアルバム『ドラマ』に収録されている『いびつな愛』。HEREの『アモーレアモーレ』のあとに聴く『いびつな愛』は、“奇抜な愛/奇抜な愛/きっと終わりゆく未来だろ”という登場人物たちの愛に対しての想いにニヤリとしてしまう。この曲をセットリストに入れた理由を聞いてみるべきだった。ラストは『アブノーマルが足りない』。下上のベース、疋田のドラム、爲川のギターが渾然一体となり、本編は終了。

だが、ここがシームレスで進む面白さ。ステージ上ではドラムの疋田がソロを叩き続けている。

■尾形回帰+現象

 シームレスに続くこのイベントだが、改めて気づくのは、ドラム3台、ギター&ベース、アンプが大量に並ぶ圧巻のステージビジュアルだ。

マイクやスタンド(あげくはステージ美術として大型の脚立もセットされている)を入れると圧巻を通り越して荘厳ですらある。きっと、ステージ袖では大変なことが起きているのだろうが、それをなんの違和感もないようにスムーズにセッティングし、受け渡しをしていく楽器担当の凄さも相当なもの。

 ステージでは疋田のドラムソロの間に尾形回帰&壱がセッティングし、轟音3ピースパンクバンド尾形回帰+現象が演奏をはじめる。

『煩わしい』、『オレハオレオマエハオマエ』、『完全論破』と社会と自分への怒りを込めた歌詞を、壱+疋田という屈強なリズム隊で押し切っていく。尾形の弾き叫びの延長ではじまったこのバンドも今となっては完全オリジナルバンドへと昇華。自由度が高いバンドだけに、ひとりひとりのメンバーが何かをやらかしそうで見ているだけで楽しい。

 ラストは尾形回帰がひとり残って、アコースティックギター1本で私小説的な叙情ソング『東京独白』を弾き叫び。尾形の上京物語とでもいう歌詞は、ドラマチックな照明に導かれて、この日、もっともメッセージが届く曲として受け取った。

■AC 9mm

 尾形回帰がステージに残り9mmの『One More Time』のイントロを弾き始め「あの男たちを呼ぼう」と声をかけ現れたのは、AC 9mmの菅原卓郎、中村和彦、かみじょうちひろの3人。かみじょうは特製のドラムセット(光る!)に座り、アコースティックギターを抱えた菅原&ベースの中村も椅子に座るスタイルで、9mmの『One More Time』を尾形回帰菅原卓郎のWボーカルのデュエットで歌う。ふたりとも普段、轟音をバックにしているイメージが強いだけに新鮮。

 AC 9mmのコンセプトは、9mm Parabellum Bulletの曲をアコースティック中心にリアレンジして演奏するというもので、演奏曲はもちろん9mmの曲なのだけど、『Discommunication』や『The World』といったお馴染みの曲ですらベルベットに包まれた高級なものに触れた気持ちにさせてくれる。メロディの強さと菅原卓郎の声の柔らかさによるものなのだろう。

 この日のハイライトのひとつは、こういう機会でもないと聴けなかったであろう『君は桜』、『淡雪』の2曲。桜の開花が近づいているにも関わらず、まだまだ肌寒い日の残る2025年の3月だからこそ2曲続けて聴けるのが嬉しい。そしてこれから先、春のリキッドルームに来るたびに、今日の情景が浮かぶのだろう。

 新作アルバム『YOU NEED FREEDOM TO BE YOU』からは、『Baby, Please Burn Out』を披露。せっかくだからとブルース仕様にアレンジした試みも良かった。特にゲストとして(?)、ブルースハープを装着したブルースマン・菅原卓郎を憑依させて歌う趣向は、それまでの緊張感あるライブが続いていたフロアに憩いを与えてくれたと思う。菅原がしわがれ声やセクシーな声色を使いつつ、3人のグルーヴを楽しんでいるのが伝わってきた。

 ラストはカントリーアレンジの『The Revolutionary』。かみじょうのドラムの抜けの良さ、そして中村のベースはアコースティックでもしっかり中村のベースラインで心地よい。新作が出る事にAC 9mmも挟んでもらいたいものだ。

■菅原卓郎ソロバンド

 AC 9mmが終わると、舞台では着々と次のバンドである菅原卓郎ソロバンドの準備が行われていく。今回のメンバーは、 リズム隊にマーシー&壱、HEREから武田将幸&三橋隼人、そして folcaから爲川裕也という布陣。

武田将幸が菅原卓郎用の衣装(HEREが以前使用していた黒に黄色ラインのジャケット)をまるでバトンリレーのように手渡し、菅原卓郎はAC 9mmモードからソロバンドモードへとチェンジ。爲川裕也も同様に(HEREが以前使用していた苺ジャケ)を着用している。

 披露されたのは菅原卓郎ソロアルバムから『今夜だけ俺を』、『ボタンにかけた指先が』、『BABYどうかしてるぜ』の3曲。9mmの楽曲から歌謡曲テイスト抽出し、セクシーさとロマンチックさをプラスしたような菅原ソロは久しぶりのライブとは思えないほど興が乗っていた。

 そして改めて、武田将幸、三橋隼人、爲川裕也の3人が揃うトリプルギターは華麗。リズム隊の正確さも踏まえて、菅原卓郎が生み出すゴージャスな令和歌謡ショーに一気に惹き込まれる。個人的には『ボタンにかけた指先が』での裕也のコーラスにグッときた。曲者バンドが続く長丁場のライブで、菅原卓郎バンドの潔い歌謡ショーが配置されていたのはとても効果的だった。新曲はなかなか増えないかもしれないけど、定期的に見たいバンドだ。

■HERE(2部)

 菅原卓郎と爲川裕也と入れ替わりに登場したのは尾形回帰。ステージにはHEREのみ。2部のスタートは『ギラギラBODY&SOUL』からスタート。
衣装は現在の柄柄が目立つ通称・カリスマ衣装に。衣装の変化で登場に緩急をつけていくのもHEREでしかできない芸当だろう。Aメロからツインギターが縦横無尽に暴れまわり、フロアもボディエン体操で大いに応える。一瞬にしてHERE色に会場が染まる。

 勢いを止めないまま次の曲は高速ギターナンバー『土壇場READY GO』へ。ギターのカッティングに、重なり合うギターソロ。「つまんない常識は/ゴミ箱にポイしてGO」の合唱も自然発生し、2部も順調に滑り出す。

 中盤は『CHAOTIC SYPATHY』からのMCをはさんで、『カリスマになんてなれなくてもいい』、『死ぬくらい大好き愛してるバカみたい』と新旧曲を惜しげもなく演奏。真っ赤な照明に照らされ、いつもよりちょっと大きなステージで繰り広げられるパフォーマンスはHEREがどんなステージでも全力でやってきたからこその、どこでもやれる底力だ。

 「もっとカオスになろうよ!」「ロックは熱狂だ!」「ロックはエネルギーだ!」との煽りでスタートしたのはライブ定番曲の『己 STAND UP』。尾形にジャイアントスイングされながらギターソロを弾きまくる三橋、すかさず前に出てギターを掻き鳴らす武田。

そして、ジャイアントスイングしたあとにマイクを見失う尾形。カオスがカオスを呼び、「ウォウ!ウォウ!ウォウ!ウォウ!イェイ!イェイ!イェイ!」というコール&レスポンスが会場中に伝搬していく。自らを鼓舞し、前に進めというメッセージがフロアのそこら中に突き刺さっていく光景は感動的ですらある。

 本編ラストは、リキッドルームの思い出が詰め込まれたバンドにとっても重要な楽曲『LET’S GO CRAZY』。バンド史上もっともキャッチーで明るい曲であり、再生の曲でもあるこの曲は、大きな舞台での演奏が似合う。この日、会場に足を運んだ人の心をちょっとだけ楽しく浮いたものにしたのではないだろうか。「LET’S GO CRAZY/俺達のやり方で/さあ笑え」。

■アンコール

 シームレスに一気に走り抜き、お客さんもいつトイレに行ったらいいのか? ドリンク交換はいつすればいいのか? と迷っている間もなく尾形回帰が即座にステージに戻ってきてアンコールもしっかりやると宣言。

 最初に出てきたのはAC 9mm。菅原卓郎の「いつラッキーなことがあってもいいように手を抜かない」とのMCを経て始まったのは『Black Market Blues』。9mm Parabellum Bulletでは滝 善充による必殺のギターイントロが鳴り響くが、AC 9mmではギター・ソロ部分をお客さんの「タラララ~」のコーラスによって補う趣向。こういう楽しい掛け合いをアンコールでやるところが心憎い。完璧な演奏力を誇る9mm Parabellum Bulletもいいけど、アコースティックでもロックの側面を見せられるAC 9mmは流石。

 続いてアンコールに出てきたのはアルカラ。曲は『交差点』。X JAPAN~LUNASEAの一節を交えたかと思うと、出演者総出で「ボディエンソー」体操をしたりと大騒ぎ。ここまでくると、本編の緊張感から開放された出演者たちの宴タイムへと突入。アンコールはこうでなくっちゃとばかりに、ステージもフロアも大いに盛り上がる。

そしてトリを務めるのはもちろんHERE。アルカラで出てきていたメンバーが楽器を持ち、人生鼓舞ナンバー『はっきよい』へ。稲村太佑、菅原卓郎も交えてステージは御意見無用のはっきよい自由空間に。

メンバーもフロアも「イエイ! イエイ!」と叫び、ラストは四股を踏んでのフィニッシュ。実に3時間の大ロックショーは大団円で幕を閉じた。

 尾形回帰いわく、このイベントは定期公演化していきたいとのこと。ということは私たちはとても貴重な第1回公演を見れたということじゃないだろうか。次回はいったいどんなHarmonizedChaosが見られるのか、まだまだこの3組が企むロックショーを見届けなければ。

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